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水戸家庭裁判所 平成9年(少)285号 決定 1997年5月14日

少年 B・K(昭和54.9.22生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  平成8年8月20日午前零時ころ、茨城県水戸市○○×丁目×番○○駅○○付近において、通行中のA子(当時20歳)及びB子(当時20歳)を認めるや、C、D、E、F、G及びHらと共謀の上、同女らを誘拐して人気のない公園に連れ込み、強いて姦淫しようと企て、そのころ、同市○△×丁目×番××号先路上において、前記A子及びB子に対し、Dが同人運転の普通乗用自動車で近付き、同人、G、E及び少年が執拗に付きまとうなどして困惑させていたところ、Cが同人運転の普通乗用自動車で同所に臨場し、この自動車から下りたF及びHにおいて、Dらに対し「すいません。連れなんですけど。」などと同女らに聞こえるように申し向け、同女らをしてC、F及びHがDらから自分を救出しててくれるものと誤信させた上、Cが「取り敢えず乗っちゃいな。」などと言葉巧みに嘘を言って同女らを欺き、C運転の自動車に乗せるや直ちに発進させて自己の支配下に置き、もって同女らをわいせつ目的で誘拐した。

第2  引き続き、上記A子及びB子を同市○□町××番地の×○○公園まで連行し、同日午前1時30分ころから午前3時30分ころまでの間、同公園内○○広場において、

1  上記A子に対し、Dほか数名がその顔面を平手で殴打し、さらに、同女に「おとなしくしていれば家に帰してやる。大阪に売っちゃうぞ。事務所にでも行くか。」などと申し向けて暴行、脅迫を加え、その反抗を抑圧した上、少年、D、C、Gにおいて強いて同女を姦淫した。

2  遅れて現場に到着した仲間のI(当時19歳)とも共謀の上、上記B子に対し、Gほか数名がその全身を足蹴にするなどの暴行を加え、その反抗を抑圧した上、Gが同女を強いて姦淫したが、その際、上記一連の暴行により、同女に対し、全治約2週間を要する頭部・下顎部挫傷、左肘挫傷挫創、背部・右臀部・両大腿・下腿挫傷の傷害を負わせた。

第3  Gと共謀の上、同日午前3時ころ、上記第2記載の○○公園○△において、A子所有の現金2万円を窃取した。

>第4 同月27日午後11時ころ、上記第1記載の○○駅○○付近において、J子(当時20歳)及びK子(当時20歳)が乗車する普通乗用自動車に友人のF及びHが乗車するのを認めるや、同人ら及び先輩の上記Cと相通じて同女らを人気のない公園に連れ込み、強いて姦淫しようと企て、上記3名と共謀の上、同月28日午前零時30分ころ、Fらが言葉巧みに同女らを連れ込んだ同県東茨城郡○○町○○××番地所在の○○において、少年がF及びHに対し、「誰だ、俺のかみさん回したのは。お前らか。」などと語気鋭く申し向け、あたかも少年がFらを強迫しているように振る舞い、さらに、少年が同女らに対し、「俺のかみさんがこいつらに回された。俺はこいつらを追いかけてきたんだ。お前らこいつらとどういう関係だ。お前らも一緒に来い。車に乗れ。」などと申し向けて脅迫し、同女らをして、少年らに同行しなければ自分たちの身体等にどのような危害が及ぶかも知れない旨畏怖させて同車後部座席に乗車させた上、直ちに、運転席に座った少年が同車を運転発進させて支配下に置き、もって同女らをわいせつ目的で略取した。

第5  引き続き、上記J子及びK子を上記第2記載の○○公園まで連行し、同女らを強いて姦淫しようと企て、上記C、H、F及びその後連絡が取れて参集してきたD及びLなどと共謀の上、同日午前1時ころ、同公園内○△において、上記H及びFに対し、「誰が最初に俺のかみさんをやったんだ。ぶっ殺してやる。」などと語気鋭く申し向け、さらに、少年、C及びHが、その付近に設置された○○像の物陰に赴き、同女らから見えないようにして、同○○像の側面を足蹴にするなどして物音をたてるなどし、少年及びCがHに対してあたかも暴行を加えているかのように振る舞い、前記J子及びK子の両名を畏怖させた上、

1  同所付近のベンチにおいて、CがK子に対し、「俺の仲間のかみさんが、おめえらの連れの男に回された。だから、仕返しに奴らの連れのおめえらも回してやる。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧して、強いて同女を姦淫した。

2  また、同所において、少年がJ子に対し、「お前のこと、殺してやろうか。恨むならあいつらのことを恨め。」「首を絞めて殺すのとシャブうって殺すのとどっちがいい。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したが、上記1の被害直後にK子が隙を見て逃走したことから場所を変えることとなり、引き続き自動車でJ子を同県那珂郡○○町○○××番地所在の○○公園に連行した上、同日午前2時ころから午前2時30分過ぎころまでの間、同所において、順次D、L、Cが強いて同女を姦淫した。

(法令の適用)

判示第1、第4の各事実につき、刑法60条、225条

判示第2、第5の各1、2事実につき、同法60条、177条前段(判示第2の2の事実については、さらに同法181条)

判示第3の事実につき、同法60条、235条

(処遇の理由)

1  本件は、少年が、外数名と共謀の上、脅し役と脅され役の二手に分かれて巧妙な芝居を打ち、深夜、二人連れの若い女性をわいせつ(強姦)目的で誘拐又は略取した上、人里離れた広大な公園に自動車で連行して暴行脅迫又は脅迫を加え、女性2名を一度に輪姦するという犯行を連続して2回繰り返し、被害者4名のうち1名に判示傷害を負わせたばかりか、うち1名から金2万円を窃取したという、稀にみる犯情の悪質な誘拐、略取、輪姦、窃取の事犯である。少年らの犯行の手口は、甚だ手の込んだもので悪質極まりなく、犯行の結果は余りにも重大である。被害者のうち2名(A子及びJ子)は、合計4名の者によって強姦されており、その心身に受けたダメージと屈辱感は図り知れない。また、A子と同じ機会に1名に強姦されたに止まるB子も、その際激しい暴行を受けた上強姦未遂ないし口淫等のわいせつ行為を3名から受けている。さらに、J子と同じ機会に強姦されたK子は、直後に必死に逃走しその後の被害を免れたため、中では被害が最も軽かったのであるが、そのK子ですら、本件後性格が変わり別人のようになってしまっている。その上、少年は、両事件において共に、脅し役を殆ど一人で実行し、強姦の現場でも、自分の気に入った女性を一番最初に強姦するなど、実行面で最も積極的かつ重要な役割を演じているのである。

以上のような本件非行の手口、態様と少年の関与の程度等からすると、本件は、これらの事情それ自体から、少年の要保護性が強く推認される事案であるといわなければならない。

2  その上、少年の従前の生活状況も芳しくない。すなわち、少年は、中学校3年ころから生活が乱れて他校生との不良交遊を生じ、高校入試に失敗した平成7年には、前件の窃盗事犯(バイク盗と連続ひったくり。送致されたひったくりは3件であるが、少年は、他に20件に及ぶ余罪を自白していた。)で身柄を拘束されて観護措置を取られ、その後試験観察決定を受けて結局保護観察に付せられたのに、この保護観察開始後半年余りで本件各非行に至っているのである。また、少年は、本件とほぼ同じころ、未送致の同種手口の輪姦事犯に合計4回関係している。

前記1記載の犯情に同2記載の少年の従前の生活歴、非行歴などを合わせると、今後少年を在宅のまま処遇して更生させるのは不可能ないし著しく困難であると認められ、本件は、いずれにしても、少年を矯正施設に収容して処遇するほかない事案である(この点については、付添人も同意見である。)。

3  問題は、本件が保護の限界を越え刑事処分を求めて検察官に送致するほかない事案であるか、或いは、少年をなお少年院で処遇する余地があるかという点である。この点について、関係機関の意見は分かれている。すなわち、警察及び検察官は長期の少年院送致相当の意見を、少年鑑別所は検察官送致相当の意見を、そして家庭裁判所調査官は特別少年院送致相当の意見を、それぞれ述べている。そして、関係機関の意見を検討すると、見解が分かれた決定的な理由は、各機関とも、本件非行事実の悪質重大性等についての認識はこれを共通しつつも、非行当時少年がいまだ16歳にしかなっていなかったこと、及び本件については、犯行を実質的に主導した成人の共犯者(C及びD)がおり、少年が彼らに引きずられたという面を否定できないこと等の事情を、処遇決定上どの程度考慮に入れるかについて見解の相違があるからであると考えられる。いずれの見解にも一応の説得力があるが、本件において少年が果たした役割の重大性や被害者の被害感情の峻烈さ等に照らすと、どちらかといえば、検察官送致の意見の方が常識的な結論であるようにも考えられる。

4  しかし、公益の代表者としての検察官が保護処分相当(逆にいえば、「刑事処分不相当」)という意見を述べている本件のような事案において、その意見に反して少年を逆送するのは慎重でなければならない。その理由は、以下のとおりである。

すなわち、現行刑訴訟は、検察官に公訴権を独占させ、かつ、犯人を起訴するかどうかの裁量権(起訴猶予権)を与えている。その結果、社会秩序を維持する上で犯人の起訴を必要とするかどうかの判断について第一次的な責任を負っているのは、現行法体系上検察官である。しかし、少年法は、少年については、検察官が直接起訴することを許さず、検察官に対し、事件を全件一旦家庭裁判所に送致させることとした。これは、少年が、心身の発育途上にあって思慮分別が十分でなく、また、今後の指導のいかんによっては大きく変わり得る可塑性を持っていること等を考慮して、成人であれば起訴を相当とする事案においても、犯人を保護処分で処遇することにより更生させる可能性がないかどうかを家庭裁判所に判断させるためである。もっとも、少年法は、保護処分による更生の可能性のある事案においても、家庭裁判所が少年を刑事処分相当として検察官に逆送する道を残している。それは、少年に対する家庭裁判所の処分が保護に傾き過ぎると、社会の応報感情が満足されず、ひいては法秩序軽視の風潮をも生みかねないこと等を考慮したからにほかならない。しかし、少年法はこの規定も、前記のような検察官の地位に影響を及ぼすものではないと考えられる。

このような少年法20条を含む現行法体系全体の趣旨、特に、犯人を起訴することにより社会秩序を維持する第一次的な責任は検察官にあり、検察官の家庭裁判所への事件送致は、そもそも保護処分による少年の更生可能性を家庭裁判所に判断させるためのものであること等に照らすと、家庭裁判所が保護処分により更生の可能性があると自ら判断した少年を検察官に送致するのは、原則として検察官が刑事処分相当の意見を付した事件に止めるべきであり、そうでない事件について逆送の決定をし得るのは、(1)検察官の意見が明らかに不相当であるとか、(2)事件送致後少年に不利益な新たな事情が生じたり判明したりしたなど特段の事情が認められる場合に限られると解するのが相当である。

5  そこで、以下、このような観点に立って本件につき検討する。まず、少年の保護処分による更生可能性については、以下のような事情が注目されなければならない。すなわち、それは、(1)少年は、小学校5年当時に父母が別居したため、当初は父と共に父の実家に同居し、その後高校受験を控えた時期に母の許に移ったが、平成7年5月ころ、母の異性関係を批判したことなどから母の許を追い出されて、再び父の実家に戻ったこと、(2)少年は、前記のとおり、同年秋に前件窃盗の非行事実により試験観察に付せられ、成績良好によりその後保護観察に付されたが、保護観察も良好に推移しており、平成8年5月には、保護観察所の協力雇主である鉄筋業○○に勤務するようになったこと、(3)ところが、同年7月3日に大腸がんで入院した祖父が一週間後には死亡してしまい、その直後から、それまで祖父の言うことだけは聞いていた父の飲酒がひどくなって、アルコール依存症が進行したこと、(4)そのため、少年は、父の起きている間は自宅にいるのが嫌になり、近所のスーパーやコンビニの駐車場に行き、そこに集まる者らと深夜遊びを始め、本件共犯者らの一部と知り合ったが、そのような生活の中で、前記○○もやめてしまったこと、(5)8月になって、少年は、○○の先輩を通じて、本件の共犯者で主犯格のDやC、さらにはEらと知り合い、特にDから弟のように可愛がられて、急激に親しくなったこと、(6)少年は、DやCから誘われてナンパ遊びをするようになり、当初は誘った女性と一緒に飲酒する程度であったが、遊びは次第にエスカレートしていったこと、(7)8月中旬ころ、ナンパした二人連れの女性をDが強姦しようと提案したのに対し、少年は、当初反対したが、同人から「女の子は恥ずかしくて親にも言わないから大丈夫だ。」などと説得されて承諾し、これが契機で、一連の輪姦事件に発展したこと、(8)脅し役と脅され役の二手に分かれて芝居をするという筋書きも、もともとDが提唱したものであること、(9)少年は、このように輪姦が成功するうちに罪の意識もなくなり、大胆に脅し役を実行するようになったこと、(10)9月になり、少年は、Dらとの交際に疑問を持って付合いをやめ、清掃作業員として真面目に働き出していたことなどである。

このように、前件の非行以後順調な立ち直りを見せていた少年が本件非行に行き着くまでには、祖父の死亡及び父のアルコール依存などやや不運な事情があったことが窺われる。また、少年が本件非行に深入りした経過には、たまたま家庭が混乱していた時期に先輩格のDから可愛がられ、同人に誘われたという事情も認められる。そして、少年は、本件により逮捕、勾留、観護措置を二回ずつ取られ、3か月に近い身柄拘束を受けてきたが、その間の反省の情は著しく、現在では、被害者に対する激しい自責の念に駆られている様子が見受けられる。そうすると、少年については、その犯行の際の大胆不敵な行動にもかかわらず、今後保護処分によりこれを更生させることは可能であると認められる。

6  そこで、このような少年を、保護処分ではなく刑事処分に付さなければならない事情があるかどうかについて、次に検討する。確かに、上記のような事情があるにしても、本件非行の悪質重大性、その中で少年が果たした役割等からみると、本件について少年を刑事処分に付すべきであるという見解には傾聴すべきものがある。しかし、他方、上記5の事情のうち、特に、少年が非行当時未だ16歳のいわゆる年中少年で、成人共犯者であるDの影響を大きく受けていたという事情は、本件における少年の責任の程度を考える場合に、やはり考慮に入れざるを得ないであろう。少年法は、送致の時16歳に満たない少年を逆送することはできないとし(法20条ただし書)、また、刑事処分においても、犯行時に18歳に満たない者に対しては死刑及び無期懲役刑を科すことができないと定めている(51条)。少年法のこれらの規定の趣旨は、非行当時16歳、現在でも17歳に過ぎない少年の処分を決する際にも、相当程度考慮されるべきである。

そうすると、本件について少年に保護処分をもって臨むのが相当であるとした検察官(及び警察)の意見は理解できないわけではなく、これを明らかに不当であるということはできない。また、本件において、審判段階で少年に不利益な新たな事情が生じたり判明したりした事実もない。したがって、当裁判所は、刑事処分を求めて本件を検察官に送致することはせず、少年院での矯正教育による立直りに期待することとする。

7  最後に、少年院の種類の指定について一言する。本件については、少年の問題性が大きく矯正のための生活訓練や自立心の涵養にはかなりの長期間を必要とすると考えられ、個別性を重視した矯正教育に力点のある特別少年院を指定すべきではないかとも考えられる。しかし、前記5の諸事情からすると、少年が保護観察期間中に本件非行に及んだり、その際に主犯に準ずる重要な役割を果たしたからといって、直ちに特別少年院でなければ少年を更生させることができないとはいえない。のみならず、未だ17歳で施設経験もない少年を、主として犯罪的傾向の進んだ少年の処遇を目的とする特別少年院に収容するときは、他の収容者による悪影響を受ける恐れもないではないので、少年の将来の更生のためには、かえって一般の中等少年院での処遇の方が適切であると考えられる。以上の理由により、少年院の種類としては、特別少年院ではなく中等少年院を指定する。

よって、少年院24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 木谷明)

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